守るべきもの
「永遠の0」(太田出版、2006)という小説を読んだ。 作者は百田尚樹(ひゃくた・なおき)さん。1956年大阪生まれ。大阪・朝日放送テレビのお化け番組「探偵! ナイトスクープ」の構成作家。 しかし、ある世代の人たちには、70年代に同じ朝日放送でやっていた「ラブアタック!」で、何度「かぐや姫」に落とされても再び応募してくる「みじめアタッカー」の代表格の学生、と言った方が通りがいいかも知れない。かぐや姫に断られて野太い声で「失敗だった……」とうなだれるパターンを、彼自らギャグにしていた。だから僕にとっては、近所に住んでた兄ちゃんが本を出しました、という気分である。 小説は、宮部久蔵(みやべ・きゅうぞう)という零戦パイロットを祖父に持つ主人公・佐伯健太郎が、祖父のルポを書きたいから手伝えと言う姉・佐伯慶子に誘われ取材を進めるうちに、「帝国軍人であったにもかかわらず、凄腕の飛行機乗りでありながら、生き残ることに限りなく執着した『臆病者』が、なぜ最後は特攻を志願して死んでいったのか?」という疑問の答えに、少しずつ近づいていくという物語である。 健太郎は、当時の久蔵の戦友をひとりひとり訪ね歩いて話を聴き、祖父の実像に迫る。当然、彼らの様々な価値観によって「久蔵像」は微妙に揺れ動く。こういう場合、作者は自身の考え方をどの登場人物に仮託しているのだろうか。 おそらく作者は、この「零戦」や「特攻」を巡ることに、相当の取材をしただろう。あの「みじめ」な感じからは想像もつかない、と言うとめっちゃ失礼だけれど。前線の兵士の戦意、割り切り、恐怖、悔しさ、そういった様々な感情を、これだけのヴァリエイションで書けるのは豊かな学習や資料集めを持ってしかあり得ない。 ここは「反戦ブログ」ではないので、本の感想としてだけ軽く述べておくと……戦後60年の--戦後60年しか経っていない--今、言えることは、「いつまでも人は同じ過ちを繰り返す」ということだ。前線の戦士は単なる使い捨てのコマ。守られるのは、実は力を持った者の権益や、時には単なるプライドでしかない。それは技術がいくら発達した現代であっても同じなのだ。 そして、「誰を守るのか」を決めるのは、今の世の中ではとりあえず国会だ。自分が投票しようとしている相手が、最終的に「民衆一般」を守ろうとする人なのか、力ある人を守ってしまう人なのかは、ちゃんと見極めて選挙権は行使しようと思う。 なお、なぜ「探偵! ナイトスクープ」が「お化け」かと言うと、金曜夜11時台の放送であるにも拘わらず、地元では常時視聴率20%台を叩きだしているからである。その「お化け」をなぜ東京のテレビ朝日では放送しないのかも、ある意味「お化け」な事実だ(神奈川県ではテレビ神奈川で観られます)。
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