色香高き「ババア」
映画「アルゼンチンババア」(長尾直樹監督)を観た(5/10, 東京・渋谷Q-AXシネマ)。 今年3月に全国公開されたが、他の劇場では一通り終わってしまっていて、日本中でここしか残っていなくて、しかもここもこの翌日に終わるという状態だったこの作品(……てなことをネットで調べて妻に告げたとき、何だか僕は「鼻の穴を脹らましていた」らしい。この表現は、僕にとってはやや不本意だ。ええ映画やった思うんやったら、もうちょっと感謝の気持ちが表れる表現にしてくれ)。僕の年度末・年度初めの忙しさのせいで、ついつい観に行く機会を失っていたものだ。 アルゼンチンから日本に移り住んだ女性・ユリ(鈴木京香)は、ひとりだだっ広い野原の真ん中に建つ謎の洋館に住み、付近の住民から「アルゼンチンババア」と揶揄される。子どもの頃から彼女を見知る高校生みつこ(堀北真希)は、ある日入院中の母(手塚理美)が目の前で事切れるという悲劇に見舞われるが、父(役所広司)はその現実を受け入れられず、妻の葬式さえ出さずに忽然と姿を消す。やっと半年経ってから、彼はユリの館にいることがわかるが、自分がいた家に決して帰ろうとはしない。みつこや叔母(森下愛子)らが何とか彼を連れ戻そうとするが……というお話。 よしもとばななさんの原作は読んではいないが、物語としてはまあこんなもんちゃいますー?という感じだ。それよりも、シンゴ&アスカのお2人が振り付けられたタンゴ・ダンスの部分が絶品。冒頭で役所さんと京香さんとがペアで踊るシーンは、本当にシンゴさんとアスカさんかと見まごうほどだった。 また、作品の終わり近くで、背の高い京香さんのリードで真希さんと組む場面も秀逸。お2人のご指導力と、俳優さんたちの吸収力がここに結実したという感じだ。ただ、一応ユリはアルヘンティーナという設定なので、もうちょっとだけそれらしく踊っていただきたかった気はするが。 そう、「ユリ」という、ちょっと日本風に聞こえる名前ではあるが、彼女はアルゼンチン人なのです。原作者が知っていてつけたかどうかはわからないが、「ユリ」は "Yuriria" の短縮形で、(何語の名前かは知らないけれど)ヨーロッパ語圏にはよくある名前らしいのだ。実際、20年前のメヒコにも「ユリ」という名の人気流行歌手がいたし。 また、みつこが洗濯物を干しているときに口ずさんでいるのがフォルクローレの名曲で、よく "El cóndor pasa" (コンドルは飛んで行く)とメドレーで歌われる "El Humahuaqueño" (花祭り)の一節だったりとか、ユリが「アルゼンチンの軍政時代、目の前で家族が政府に殺された。それが私もなかなか受け入れられなかった」とみつこに語るシーンなど、いくつも「ラテン世界への小さなこだわり」が感じられて、面白かった(ただ、「いわれなき軍政下の弾圧による殺戮」を自分が認められなかったから、「妻の病死」をうまく理解できないあなたの父のことをわかってはどうかという、この2つを同列に扱うかのような表現のしかたには疑問を感じた)。 こうしてみると、タンゴて結構おはなしになるんやなーて思う、少なくとも日本映画ではな。日本で味わい深いサルサの映画作ろ思たら、もうちょっと文化として熟さんといかんでしょ。キューバのいろんなダンスを絡めたのはあったけどね ("Kyoko") 。 ところで、シンゴさんは今日から5日後に迫った「第4回タンゴダンス世界選手権アジア大会」のアトラクションで、杉本彩さんと踊られます。「教える力」と「自分で踊る力」とは必ずしも一致はせんけど、僕はこの映画を観て、期待を持ってしまった。
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