先走り・後走り

 以前、メヒコ北部のカナネーアという町に住む友だちに会いに行った時のことだ。彼と彼の小学生になる男の子と僕とで、彼の自宅近くの山にハイキングに出かけた。やがて雲行きが怪しくなってきた。いや、怪しくなることは最初から予報でわかっていたのだ。果たして、歩いている途中でポツポツき始める。雨が降り出した途端、その友だちは急に息子に対して「何してるんだ! 早く帰るぞ、急げ!」と叫び始めた。
 僕は、もっと早い段階から「雨が降ってきそうだから速く歩け」などと指示すればいいのに……と考えていたが、実際には大部分のラティーノスの行動は、こんな感じなのだろうとも思った。先走りではなく「後走り」とでも言えるやり方ですね。

 20年ほど前のこの出来事を僕に思い出させることが、最近日本で起こった。


 日本で唯一と言っていいスペイン語の定期発行紙、International Press en español が、先日の10月9日号を限りに、16年余りにわたる紙媒体による発行活動を取り止めたのだ。

 1994年、僕が藤沢は湘南台に住んでいた独身時代、いつものように立ち寄った自宅近くの南米食材店で「今度こんなのが出たよ」と紹介された、その新聞こそが「インターナショナル・プレス」スペイン語版だった。僕の記憶が正しければ、1部売り300円という値段は、当時から今に至るまで変わっていないはずだ。
 当初は、ラテンアメリカからのとれとれの政治・スポーツ・文化、そしてもちろん音楽情報まで、ありとあらゆるものを網羅したワクワクものの週刊紙だった。日本で行われるサルサ・イヴェントの情報は、かつてこの新聞の編集部にいて、僕の友人でもあるペルー人のM記者がずっと追いかけていて、彼のお陰で僕も何度かこの新聞に出させていただいたことがある。もちろんSHJのジョージ渡部さんも幾度となく登場している。

 それが時を経るに連れて、日本に住む日系人向けの記事が多くなる、海外のニュースはペルーからのものが中心になる、日本のサルサについては「こんなことがありました」というものよりも「何日にどこそこでこんな催しがあります」という予告記事が多くなる等々、いくつかの変化があった。それにつれて僕が読む記事も、サルサ・パーティーの告知が主になってきて、毎週読む意味が微妙に薄れてきていたのは確かだった。そういう意味では、今回の決定は僕にとってはまさに潮時だった。
 とは言え、3年前のペルー被災者救援イヴェント(於・大和市生涯学習センターホール)や、去年のメヒコ独立記念日パーティー(於・当時のインパクト・ラティーノ)はこの新聞を見て出かけた催しだし、日本で起こった普通のニュースが、スペイン語でどう書かれているかを読んだりするかを確認するのはずっと興味深かった。


 一般に報道されるのに遅れること約10日、IPはその本編最終号でようやく「紙媒体発行中止」の社告を載せた。そしてその最後に曰く、「定期購読の皆さまには、10月中に、残りの購読料の返却方法等々を明記したお便りをお送り致しますので、今しばらくお待ち下さい」。

 予想どおりだったとは言え、今日11月5日になって、やっと現金書留が僕の元に届いた。スペイン語で言っても「10月中」とは「10月31日まで」のことだと思うぞ。日中自宅にいなかったので未だ受け取っていないが、せめて書留の送料を差し引いての送金になっていないことを祈る。
 それ以前に、「最終号でやっと発行停止のお知らせが載る」なんて、日本の新聞が同じことをするとしたら、いくら何でも考えられないやり方だ。普通は数号前から予告ぐらいするし、返金の段取りも先にするでしょ。「発行終了」の報道があった後に発売された号に、実は「年間購読のお誘い」が載っていたのを僕は見逃してはいない。あれを見て、何も知らずに購読料の送金をした人が何人かいたとしたら、その人たちは今一体どういう気持ちでいるんでしょう?



千兵衛の "「居場所カレー屋」まで、HALF A MILE AWAY"

「昼ごはん時はカレー屋さん、午後は若い子たちの居場所にして、晩ごはんの時間にはまたカレー屋に戻る……」そんなお店を将来やることだけは決めた。ただ、カレーを作るのと人と話すのは好きやし今までやり倒してきたけど、店を経営したことがあるわけじゃなし、皆さん、知恵と力を貸して下さーい!というサイト。踊ったり遊んだり、毎日の生活満載の Instagram, Facebook やブログのリンクも貼っています!

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