プチ怒りと、サルサ仲間たちへの提言
"International Press -Semanario en Espanol" (東京で発行されている週刊のスペイン語新聞。SHJの渡部さんをはじめ、日本国内外のサルセーラス/サルセーロスもたびたび登場する。僕も写真で載ったことが2度ほどある)の2月11日号に、こんな記事が載った。 「警察、『(店の名前)』を薬物で摘発」 「1月22日未明、同店に踏み込んだ警察が、コカインの売買に関わったとして、店を任されていたキューバ人M.A.と他の従業員4名(キューバ人2人、ペルー人1人とメキシコ人1人。国籍は店関係者からの情報による)、更にコカイン使用の容疑で客2名(国籍不明)の計7名を逮捕した」 なお店名は、店の名誉を考えここでは伏せさせていただく。もっとも、僕も何度か行ったことがある、明るい普通の店だし、報道で公開されてはいるので、調べようと思えば簡単にわかるとは思うけど。 記事は、外国人が関わる薬物犯罪の実態(2000年以降、年ごと、国籍ごとの逮捕者数の表つき。ただ、この表の出典〔例えば「××年何とか白書より」とか〕は明確にされてはいない)を示し、「この統計に、これまでキューバ人も、ペルー人も、メキシコ人も登場したことはなかった」と述べる。 そして、渡部さんの言葉が少し入り、記事は「名前を明らかにしないことを求めた、とある有名女性サルサ・プロモーターの発言」で締めくくられる。 「私はもう六本木へは行きません。通りには山のように警官がいて警戒していますよ。今はもう、クレジット・カードで薬物が買えるらしいですよね。六本木は犯罪のにおいがします。サルセーロスはみんなどうして、他の場所でもっと健康的にサルサを楽しもうとしないんですかね?」 僕は、はらわたが煮えくりかえる思いである、2つの意味で。 まず、この「プロモーター」さんの発言に対してだ。 六本木がサルサのメッカである(この記事のリードにも書いてある)ことにはそれなりの理由や背景があるのだし、僕は六本木という街が好きだ。僕は十分「六本木で健康的に」サルサを楽しんでいる(昨夜もオルランドのルンバのレッスンでええ汗かいたで)し、他の大部分のサルセーラス/サルセーロスもおそらくそうだ。薬物摘発事件が1つあったからといって、六本木のサルサ界や、六本木全体を恐ろしい街みたいに言わないで欲しい。 一応「六本木の名誉のために」言っておくと、「山のような数の警官が警戒している」という表現は事実に反する。 もっとも、この人がそういう価値観なのならいいでしょう。六本木でのイヴェントやレッスンには今後一切来ないということで、ご自分の発言の責任は果たしていただければ結構。「名前は明らかにしていない」ので、僕も確認のしようがないのだけれど。 もう1つは、この署名記事それ自体に対してである。「プロモーター」さんのこの発言がとても強調されているように、僕は感じてしまうのだ。 この号の1面の記事紹介でも一言「六本木はもうお勧めできないと言われている」という触れられ方をしているし、何かバランスを欠くような気がする。渡部さんの「薬物の売買をしてるんじゃないかっていう疑いを持たれないようにするためには、持ち主のわからないかばんや荷物をしっかり見張っておくことが大切なんです、ヴェルファーレでやってるようにね。でも小さいクラブなんかでは、そんなことやれてないからなあ」という冷静な言葉を載せてあるにしてもだ。 また、「薬物でアゲられたキューバ人、ペルー人、メキシコ人は今までいなかった云々」にも疑義がある。「年別、国籍別逮捕者表」に、載っている全部の国の分の人数を足しても「合計」の人数にならない。ということは、この他に例えば「1人」等の国が実はあるかも知れなくて、「今まで逮捕者もいなかった国から初めて出た、とんでもない奴ら」とも読める書き方にも、何か意図的なものを感じてしまう。 さて、この事実、そしてこの報道をあなたはどう見ますか。日本語の一般紙ではない、あまり普通には知られていないスペイン語の週刊新聞が、どれだけの社会的影響を持つのかはわからないし、一応「署名記事は社の方針と必ずしも一致するとは限りません」と、この新聞の社名欄に書いてあるのは多少差し引くとしても。 「サルサ界」は、今やマイナーな世界ではない。こうやってサルサ場が舞台となった犯罪が摘発されれば、新聞ネタにもなる。そして、それを使って、なぜなのかはよくわからないが、何らかの意図を持って文章を書く人も現れる。 つまり、これまで何人もの人が良心的に築き上げてきたサルサ文化が、ちょっとした不注意で、音を立てて崩れることがあり得るということだ。 これをお読みの方で、もしこれまでに、ちょっとした好奇心で危ない橋を渡ったことがある人がいたら、肝に銘じて欲しいと言いたい、自戒も込めて……。あなた1人の行動で、日本のサルセーラス/サルセーロス全員を危機に陥れることは、案外簡単なことなのだ。 想像してみて欲しい。今回アゲられたのは主にラティーノスだった。それはそれで不幸なことだが、この中にもし日本人が含まれていたなら……。真の意味で「健康的にサルサを踊る」とはどういうことなのか、改めて考え直したい。
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